

復活導く「考える工場」
「セル」改良13年、ノウハウの拠点
モノ作り復権を掲げて登場した中鉢良治社長が就任三年目を迎えるソニー。二〇〇七年三月期の連結決算ではエレクトロニクス部門が四期ぶりの黒字を見込むなど、復活の兆しも見える。ただノートパソコン用バッテリーの発火問題では、コスト優先の弊害が露呈し、信頼は大きく傷ついた。どん底からの復活を目指す取り組みを追った。
薄型テレビで出遅れ、エレクトロニクス部門が赤字に苦しんできた間も、年間数百億円の営業利益をたたき出してきた工場が愛知県にある。生産子会社、ソニーイーエムシーエス(ソニーEMCS)の幸田テック(愛知県幸田町)だ。
世界初の家庭用ビデオデッキの量産工場として、創業者の故盛田昭夫氏が米国西海岸の「インダストリアルパーク」をイメージしてつくった工場は緑が多く、公園の雰囲気すら漂う。木立の高さが操業三十五年という年月を感じさせる。主力製品はソニーが世界シェア約四割を誇るビデオカメラ「ハンディカム」。世界に年間約七百万台を供給する拠点だ。
組み立てラインを流れるのは学校給食で使われるようなトレー。電子の目であるCCD(電荷結合素子)など付加価値の高い内製部品がカメラ一台分、きれいに「配膳」されている。作業者は隣の作業台からこのトレーを受け取る。自分が担当する部品を組み立て終わると、また次の作業者がトレーを受け取る仕組みだ。
組み立て終わると空になったトレーはラインの先頭に戻り、再び配膳される。一台ごと完成させていく「一個流し」と呼ばれる多品種少量生産に適した方式だ。
「振り向く動作のムダを排除し、余分な仕掛かりを無くした」。セット製造グループプロダクト製造2部の小寺利美統括部長はこう説明する。以前のセル生産方式は作業員の周りに設置した棚から必要な部品を取り出していたが、今はそんな部品棚もない。次の作業者が組み立てに手間取れば、ラインはそこでストップするため余分な仕掛かり品が発生しない。中間在庫がゼロという究極の生産方式と言える。
九四年に「うさぎ追い」式と呼ばれる最初のセル生産方式を導入してから十三年。セル生産は製品の部品点数や量、納期、コストなど様々な条件を加味しながら、時間とともに形を変えて改良が加えられてきた。九二年からこれまでの改良で六千六百人分の仕事が浮き、約九万平方メートルのスペースを節約した。
だが効率的な生産ラインだけならほかにも優れた工場はたくさんある。幸田テックの特色は頭脳を持つ工場という点だ。約千五百人の社員のうち組み立てなどの現場で作業しているのは三分の一に過ぎない。大半は設計などのエンジニア。生産技術を担当するだけでなく、商品企画の段階から本社の設計やマーケティング部隊と一緒に開発に参画する。デザインについても製造現場の立場から提案する。
「フレキシブル基板を使って、囲むように配置すれば本体をもっと小さくできる」「この筐体(きょうたい)を五ミリ低くすれば、治具を使えるのでもっとコストダウンができる」
組み立てラインで目立つのは正社員よりも外国人労働者の姿だ。ニッポンの工場では当たり前になった光景だが、幸田テックは労働者の国籍に品質が左右されない徹底した教育システムを編み出した。
作業者が覚えなければならない五十項目は映像マニュアルにしてある。イントラネット上でいつでも閲覧できるようにした。例えば設備オペレーターの場合、コンピューター画面でパーツの取り付けを選ぶと、その手順が音声付きの動画で表示される。注意すべきポイントは拡大画面でさらに詳しい説明がでる。
こうした「映像マニュアル」は二十種類以上にのぼり、毎月のようにその数が増えている。対応言語もポルトガル、中国語版など四カ国語。幸田テックだけでなくソニーEMCSの国内十工場のほか、マザー工場として生産支援する海外工場にも順次、配備する計画だ。モノづくり復活へ、強い工場のDNAを移植する試みが始まる。
2007/05/08, 日経産業新聞
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