1.労働保険
労働保険とは、労働者災害補償保険と雇用保険を合わせて一つの保険として扱うものです。一部の例外を除いて従業員を一人でも雇用すれば、事業主は加入手続きを行い保険料を納めなければなりません。労働保険への加入は事業主に定められた義務であり、雇用をすれば国籍を問わず外国人であっても必ず加入することになります。給与額や、保険そのものの必要性から、外国人従業員が自ら加入を拒否することもありますが、任意ではないので必ず加入させる必要があります。加入に関しては一般的な日本人が加入する場合とほぼ同様の手続きとなります。 ごく稀に問題となるケースは、退職後に提出する資格喪失届に付随して提出する雇用保険被保険者離職証明書の記載です。失業給付をはやくもらうために、「自己都合による退職」にもかかわらず、「会社都合による退職」と記載した場合には、不正受給となり企業側の責任も問われます。従業員からこのような記載を頼まれた場合でも、正しい記載をしなければなりません。
2.社会保険
日本で働く外国人にも原則として健康保険法及び厚生年金保険法が適用され、被保険者として取り扱われます。ただし、雇用する企業が適用事業所に該当しない場合や、下記に該当する場合には適用を除外されます。
①船員保険の被保険者
②日々雇い入れられる者または2ヶ月以内の期間を定めて使用される者
③所在地が一定しない事業所に使用される者
④季節的業務(4ヶ月以内)に使用される者、臨時的事業の事業所(6ヶ月以内)に使用される者
⑤1日の所定労働時間がその事業所の一般社員の概ね3/4未満である者
一方、海外の事業所から派遣された外国人社員などで、賃金が海外の外国企業から支払われている場合には、健康保険及び厚生年金保険の被保険者とはなりません。外国企業である出向元から報酬が支払われていても在留資格の付与が認められる「企業内転勤」の在留資格を所持している場合には多く見られるケースです。
また、日本国籍を持たない外国人労働者が厚生年金保険料を納付しても厚生年金を受給できる可能性が少ないことから、脱退一時金制度が設けられています。いくつかの条件を満たせば、外国人が厚生年金保険等の被保険者資格を喪失し、日本を出国後2年以内に請求されたときには厚生年金保険料の一部が支給されます。
3.脱退一時金
厚生年金保険に加入していた外国人が本国などに帰国することになった場合、加入期間が6ヶ月以上あれば脱退一時金の請求が可能となります。外国人であっても原則として厚生年金の被保険者となり、滞在中の事故や傷病により障害を受けた場合は障害厚生年金、死亡した場合は遺族給付が支給されます。しかし、老齢厚生年金については被保険者期間が短いため受給要件を満たすことができないケースがほとんどです。そのため、年金を納めたが受給できないといった問題を解決するために設立された制度です。 この請求は出国後2年以内に社会保険業務センターに「脱退一時金裁定請求書」をパスポートの写し、年金手帳、振込先の銀行名などの必用書類とともに郵送して行います。必要書類や請求書は社会保険事務所、社会保険事務局の事務所または年金相談センターなどに用意されています。
ただし、既に年金の受給権を持っている場合、障害手当金を受け取ったことことがある場合、将来老齢年金を受け取る資格期間がある場合には脱退一時金を請求することはできません。また、脱退一時金の支給を受けた場合、その期間は、社会保障協定において年金加入期間として通算できなくなるので注意が必要です。
保険料納付済期間 |
受給金額 |
6月以上12月未満 |
45,300円 |
12月以上18月未満 |
90,600円 |
18月以上24月未満 |
135,900円 |
24月以上30月未満 |
181,200円 |
30月以上36月未満 |
226,500円 |
36月以上 |
271,800円 |
4.社会保障協定
国際化が進んだ結果、海外にある企業から日本にある支店や営業所などに多くの外国人が派遣されるようになりました。その結果、日本の社会保険制度上で、「二重加入の問題」、「保険料掛け捨ての問題」、の2つの問題が発生するようになりました。「二重加入の問題」とは、日本で働く外国人が本国での社会保険制度に加入した上、さらに日本の社会保険制度にも加入し、2ヶ国分の保険料を負担しなければならないことです。また、「保険料掛け捨ての問題」とは、日本での加入期間が短いためにせっかく保険料を支払っても、肝心な年金を受け取ることができず、結局は保険料をかけ捨てているのと変わらないというものです。
このような問題を解決するため、二国間で社会保障協定を締結することにより、年金制度等の二重加入を防止するとともに、外国の年金制度の加入期間を取り入れ年金が受けられるようにするものです。
この社会保障協定の基本的な考え方は、事業所から派遣される人などの社会保険制度の取扱いに関し、就労地国の制度のみに加入することを原則とし、一時的な派遣者については、派遣元国との雇用関係が深いことを考慮して、例外的に、派遣元国の制度のみに加入するというものです。これは、二重加入を防止するため、一時的な派遣者については、就労地国の制度との関係よりも派遣元国の企業との雇用関係を重視し、派遣元国の制度に継続して加入すべきとの考え方によるものです。
社会保障協定における「一時的」というのは、通常5年とされています。つまり、派遣期間が5年以内である一時的な派遣者は、派遣元国の制度のみに加入し、派遣期間が5年を超える派遣者は、原則就労地国の制度のみに加入するということになります。
一方、年金加入期間通算の基本的な考え方として、一方の国の年金制度の加入期間のみでは、受給資格を満たさない場合、他方の国の年金制度の加入期間を一方の国の加入期間とみなして受給資格期間に通算することにより、年金を受けられるようにするものです。
ただし、通算された加入期間に応じて計算された年金を、一方の国からまとめて支給するような仕組みにはなっていません。そのため、年金加入期間通算により支給される年金額は、一方の国の実際の加入期間に応じて計算された額となります。
このように便利な社会保障協定ですが、すべての国と協定が結ばれているわけではありません。現在はドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコで有効となっており、スペイン、イタリア、アイルランドでは近い将来に有効となる予定です。また、協定を締結する国によりその内容が異なりますので、相手国に合わせて個別に内容を確認する必要があります。以下の表は簡単に協定内容をまとめたものです。
相手国 |
協定発効年月 |
期間 通算 |
二重防止の対象となる社会保障制度 |
|
日本 |
相手国 |
|||
| ドイツ | 平成12年2月 | ○ |
・公的年金制度 | ・公的年金制度 |
| イギリス | 平成13年2月 | ー |
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| 韓国 | 平成17年4月 | ー |
||
| アメリカ | 平成17年10月 | ○ |
・公的年金制度 ・公的医療保険制度 |
・社会保障制度 (公的年金制度) ・公的医療保険制度 (メディケア) |
| ベルギー | 平成19年1月 | ○ |
・公的年金制度 ・公的医療保険制度 ・公的労災保険制度 ・公的雇用保険制度 |
|
| フランス | 平成19年6月 | ○ |
・公的年金制度 ・公的医療保険制度 ・公的労災保険制度 |
|
| カナダ | 平成20年3月 | ○ |
・公的年金制度 | ・公的年金制度 (ケベック州年金制度を除く) |
| オーストラリア | 平成21年1月 | ○ |
・退職年金保証制度 | |
| オランダ | 平成21年3月 | ○ |
・公的年金制度 ・公的医療保険制度 |
・公的年金制度 ・公的医療保険制度 ・雇用保険制度 |
| チェコ | 平成21年6月 | ○ |
||
| イタリア | 発効準備中 | ー |
・公的年金制度 ・雇用保険制度 |
・公的年金制度 *専門職年金基金制度は除く ・雇用保険制度 |
| 署名済み(準備中) | スペイン、イタリア、アイルランド | |||
| 交渉中 | スイス、ハンガリー | |||
5.脱退一時金と社会保障協定の関係
外国人脱退一時金の支給を受けた期間は、協定において年金加入期間の通算対象外となります。社会保障協定における「年金加入期間の通算」とは、日本と相手国との年金加入期間を相互に通算し年金受給権を獲得できるようにするものです。一方で、国民年金の保険料を納めた期間又は厚生年金保険に加入した期間が6か月以上ある外国籍の人は、出国後2年以内に請求を行うことで加入期間等に応じて計算された一時金が支給される「外国人脱退一時金制度」があります。この外国人脱退一時金の支給を受けた場合、その期間は、協定において年金加入期間として通算できなくなります。
そのため、社会保障協定によって「年金加入期間の通算」が可能となっている相手国の人については、将来通算により年金として受給するか、外国人脱退一時金を受けるかを、十分見極めることが必要です。




